融資の可否は、普段やり取りしている担当者では決められません。担当者が書いた稟議書をもとに、上席や審査担当、支店長、案件によっては本部が関わってゴーサインを出します(これを「決裁」と言います)。
担当者として稟議書を書いていた立場から言うと、稟議書は書いて出せば終わりではありません。支店の中でも、本部との間でも、やり取りを重ねながら決裁に向かいます。
この記事では、融資がどういう手続きで、誰の目を通って決まるのかを説明します。
融資は「稟議」で決まる——担当者は起案者
融資の承認を社内で求める文書が稟議書で、書くのは貴社の担当者です。担当者は融資を決める人ではなく、起案する人です。
稟議書に書かれる内容は、大きく二つに分かれます。
一つは取引先についての記述です。格付をはじめ、取引先の業績とその見通し、そして業績に紐付けて、返済する力があるのかどうかを書きます。担当者が文章で説明する部分の中心は、ここです。なお、格付とは、各取引先の信用力を示すために、金融機関が社内的に割り当てる指標のことです。
もう一つは案件の内容です。金額、金利、期間、資金使途、担保・保証。そして、金融機関から見た収益性です。
収益性は、社長の視界にはまず入らない項目だと思います。社長から見れば自社の融資ですが、金融機関にとっては一つの取引です。その金利と期間で、金融機関がどれだけの収益を得るのか。その採算も、稟議の論点になっています。 金利の水準には、格付などに応じた社内の目線があり、表のかたちでルール化されています。金利を下げてほしいという要望がどれだけ稟議に響くかは、この目線との関係次第です。
決裁権限は、格付と金額の組み合わせで決まる
稟議書を誰が決裁するかは、金融機関ごとの社内ルールで決まっています。基本は、格付と金額の組み合わせです。格付が高いほど、支店の中で決められる金額が大きくなる。そしてここでいう金額は、融資額そのままとは限りません。担保の有無や返済方法など、案件の内容によって、見方が変わります。
支店の規模によっても、支店で決められる範囲が変わります。その範囲を超える案件は、本部の決裁になります。また、収益性が一定の水準に届かない案件も、本部の承認が必要となります。
ただし、この格付と金額の組み合わせには例外がたくさんあります。例えば私の経験では、新規の取引先は金額にかかわらず本部の決裁でした。どんな例外があるかは金融機関ごとに違います。
信用保証協会の保証が付く融資では、金融機関の中の決裁に加えて、保証協会の審査も入ります。
決裁が本部まで上がれば、その分だけ時間がかかります。相談から実行まで1か月程度は見ておいたほうがいいと別の記事で書きましたが、その時間の多くは、稟議書がこのルートを上がり、支店と本部のやり取りを経て決裁されるまでの時間です。
担当者に決める権限はない。それでも、担当者次第で結果は変わる
担当者には決裁する権限はありません。担当者と良好な関係を築いていれば融資が通る、というものではない。一方で、担当者はただの窓口だというのも違います。案件は、担当者が稟議書を書くところから始まります。 担当者が後ろ向きであれば、通るものも通りません。
決裁に関わる人と社長が会う機会はどうでしょうか。支店長や、支店の中の審査担当とは、会う機会もあるでしょう。本部の審査担当と会うことは、まずありません。本部は、稟議書と、支店とのやり取りを通じて貴社を見ています。支店と本部の間では、案件について議論や交渉が行われます。貴社が事業計画を作っていれば、それも稟議書の添付資料として一緒に本部まで回ります。
そして、担当者によって取引先の見方は違います。同じ会社の同じ決算書を見ても、どこに注目し、どう評価するかは、その人の経験や見方によって変わる。担当者が交代すれば、会社に対するスタンスが変わることがあります。
支店長の交代は、もっと大きな要因です。 支店長によって、支店の業績へのこだわりの強さが違います。それは融資にどれだけ前向きになるかに表れます。また、個別の取引先をどう見るかも、支店長ごとに違う。担当者と支店長、どちらの交代も、貴社への見方が変わるきっかけになります。
担当者が「書ける」かどうか
融資の可否を決めるのは担当者ではありません。ただ、決裁に向けた議論の出発点になるのは、担当者が書く稟議書と、そこに添えられる資料です。本部の人と直接話す機会がなくても、貴社の姿はこれらを通じて伝わっていきます。
そうであれば、社長の側で左右できるのは、担当者が稟議書を「書ける」かどうかです。書けるとは、稟議書の各項目を根拠を持って埋められ、決裁に関わる人から質問が来ても担当者が答えられる状態を指します。資金使途と金額の根拠、業績の見通し、返済できる理由。どれも、その材料を持っているのは社長です。事業計画のように、そのまま添付資料として回っていくものもあります。
材料を平時からどう渡しておくか、担当者や支店長が交代したときにどう動くかは、金融機関との付き合い方の記事で扱う予定です。
仕組みを理解したとしても、その中で自社がどう見えているかは別の話です。そこは一緒に見たほうが早いし、正確です。
決算書をご用意いただく必要はありません。現状を伺って、今の資金繰りや金融機関から見た貴社の姿を一緒に整理する時間として、初回相談をお受けしています。