格付と債務者区分——
金融機関の中で、貴社に付いている評価

金融機関は、取引先一社ごとに「格付」と「債務者区分」という評価を付けています。貴社にも付いていますが、普通は社長に開示されることはありません。

稟議書には、会社の名前の横あたりに、その評価を書く欄がありました。どの案件も、まずこの評価を前提に議論が始まります。誰が決裁するかも、この評価で変わります。評価が低いほど、支店で決められる範囲は狭くなり、本部の承認が必要になる場面が増えます(→融資審査の仕組み)。

この評価が「どこまで貸せるか」を決め、金利や担保・保証といった条件は、その表れとして出てきます。この記事では、評価がどう付き、何につながっているのかを説明します。なお、ここで説明する内容は、基本的な考え方こそ金融機関の間で大きく変わりませんが、具体的な枠組みや運用はそれぞれ違います。

格付——決算書の数字から付く、信用の目盛

格付と聞くと、ムーディーズや S&P といった格付会社が、国や大企業に付けるものを思い浮かべる方も多いと思います。あれと同じようなものが、金融機関の中にもあります。違うのは、融資をしている取引先一社ごとに付けられ、外には公表されないことです。

格付は、取引先の信用力を段階で表したものです。「1、2、3……」や「A、B、C……」のように、上から順に並んだ目盛だと考えてください。段階の数や呼び方は、金融機関によって違います。

土台になるのは決算書の数字です。財務の数字を定量モデルにかけると、大まかな位置がここで決まります。モデルは業種別に組まれているので、同じ数字でも、業種が違えば評価が変わることがあります。そして、決算が出るたびに格付は見直されます。

中小企業の格付は、この定量的な評価でほぼ決まり、経営者の資質や事業の強みといった定性的な評価は、格付そのものには織り込まれないことが多いと思われます。ただし、それは格付の話です。定性面は、取引をどうするかという判断全体の中では必ず見られています。

債務者区分——格付と似ているが、もう一段重い線

格付と並んで、もう一つの評価があります。「債務者区分」と呼ばれるものです。区分は五つあります。

債務者区分 おおまかな状態
正常先 業況が良好で、財務内容にも特に問題がない
要注意先 業況が低調、返済に遅れがあるなど、今後の管理に注意が要る
破綻懸念先 経営難の状態にあり、今後破綻に陥るおそれが大きい
実質破綻先 法的には破綻していないが、深刻な経営難で再建の見通しがない
破綻先 法的・形式的に破綻している

要注意先の中には、「要管理先」と呼ばれる先があります。返済が3か月以上遅れている融資や、返済の猶予など貸出条件を緩めた融資がある先です。区分の上では要注意先の一部ですが、要管理先への融資は、金融機関の開示では「不良債権」に数えられます。

正常先から要注意先へ。そして、要注意先の中で要管理先へ。どちらの線をまたぐかで、金融機関の中での扱いは大きく変わります。

格付と債務者区分は対応しています。正常先の中に格付の段階がいくつも並び、その下に要注意先に対応する段階が続く、という関係です。要注意先に対応する段階の中もいくつかに分かれていて、要管理先はその中でも下の段階になります。区分が下がれば、格付もそれに対応する段階まで落ちます。

業況に問題のない正常先なら、財務内容が良くなれば格付も上がります。ただ、債務者区分は決算書の数字だけでは決まりません。判断の軸は、事業を続けていけるか、借りたお金を返していけるかです。モデルの結果が良くても、例えば赤字になれば、分析・検討のレベルが上がります。

このとき、今の評価を維持したいのであれば、担当者は審査担当に対して、その理由を説明しなければなりません。設備投資で償却負担が膨らんだのか、リストラや資産処分の影響で赤字になったのか。その説明の根拠が必要となります。担当者が稟議書を「書ける」かどうかは、ここでも効いてきます(→融資審査の仕組み)。

業況がさらに厳しく、要注意先より下の区分が視野に入る場面では、経営改善計画がきちんと作られているかどうかも、債務者区分を判断する材料になります。債務者区分の線をまたぐかどうかという場面では、数字に加えて、数字の背景と説得力が特に問われるのです。

債務者区分はなぜ重いのか——返ってこないおそれには、備えと対価が要る

金融機関にとって、格付と債務者区分は「貸したお金が返ってこないおそれ」の大きさを表しています。金融機関はこのおそれに、二つのかたちで向き合います。損失に先に備えておくことと、おそれに見合った対価を金利で受け取ることです。

一つ目の備えが引当です。金融機関は定期的に、貸出がきちんと回収できるかを自ら点検します。これを自己査定といいます。まず取引先ごとに債務者区分を判定し、そのうえで担保や保証でどこまでカバーされているかを見て、貸出を回収の見込みに応じて分類します。その結果に応じて、将来の損失に備える金額を費用として計上します。これが引当です。同じ貸出でも、区分が下がるほど積む金額は大きくなります。まだ1円も損をしていなくても、区分が下がった時点で、金融機関の利益は減るということです。

二つ目の対価が金利です。返ってこないおそれを引き受けて貸す以上、その分を金利に上乗せします。上乗せの幅は、格付と貸出の期間に応じて目安が決まっています。別の記事で、金利の水準には格付などに応じた社内の目線があると書いたのは、このことです。

区分は引当に、格付は金利に。評価はこうして、金融機関の損益に直接つながっているのです。

変わるのは「どこまで貸せるか」と取引方針

金融機関は、取引先ごとに取引方針を持っています。積極的に取引を広げにいくのか、今の取引を維持するのか、場合によっては取引の解消まで視野に入れるのか。

方針を決めるのは、格付と債務者区分だけではありません。これまでの取引の経緯や、経営者との関係も効きます。ただ、格付と債務者区分は「どこまで貸せるか」の上限を決めます。返ってこないおそれが大きい先に、大きくは貸せない。だから、取引方針に直結します。同じ正常先でも、格付が低い先は業績にも弱いところがあるはずで、積極的にはなりにくいものです。これらの判定に担当者も支店も神経を使うのは、このためです。

そして、方針が変われば、条件に表れます。

  • 融資の金額:貸せる額が小さくなる。新たには貸せないこともある
  • 金利:上乗せの幅が変わる
  • 期間:長く貸すことに慎重になる
  • 担保・保証:求められる場面が増える

社長から見えるのは、この条件だけです。借りられる額が思ったより小さかった、金利が上がった、保証を求められた。その手前には、金融機関の中での、貴社に対する評価と方針の変化があります。

評価そのものを社長が直接変えることはできません。ただ、評価の材料を渡すことはできます。どんな材料を、いつ、誰に渡すかは、金融機関との付き合い方として別の記事にまとめました(→金融機関との付き合い方)。


仕組みを理解したとしても、その中で自社がどう見えているかは別の話です。そこは一緒に見たほうが早いし、正確です。

決算書をご用意いただく必要はありません。現状を伺って、今の資金繰りや金融機関から見た貴社の姿を一緒に整理する時間として、初回相談をお受けしています。