資金繰りとは何か——
お金を「取っておく」という仕事

資金繰りとは、事業に必要な現金を、必要なタイミングで手元に用意しておくことです。利益を出すこととは別の、独立した仕事です。

私は金融機関に27年いました。そこで分かったのは、資金繰りを見通せている会社と、口座残高だけを見ている会社とでは、金融機関の中での扱いが最初から違うということです。業績が同じでも、規模が同じでも違う。

この記事では、その手前にある「資金繰りとは何をすることなのか」だけを説明します。

資金繰りとは、お金を「取っておく」こと

月商5,000万円の卸売業の会社を例にします。ある月の取引だけを切り出すと、こうなっているとします。

  • 売上 5,000万円(翌々月末に入金)
  • 仕入 4,000万円(翌月末に支払)
  • 経費 800万円(今月中に支払)

この月の利益は200万円です。数字の上では順調な月です。

ところが今月、実際に出ていくお金は経費の800万円。入ってくるお金はゼロです。売上代金が入るのは翌々月末だからです。手元に800万円を用意していなければ、この会社は今月の経費を払えません。利益が200万円出ているにもかかわらず、です。売上代金はまだ受け取っていないのに、来月は4,000万円の仕入代金の支払いも必要になりますね。

売上代金が入る翌々月末までに出ていくお金は、今月支払いの経費800万円と翌月支払いの仕入4,000万円で、合わせて4,800万円。

手元資金4,800万円が今月末の経費と翌月末の仕入代金の支払いに充てられ、翌々月末に売上代金5,000万円が入金されるまでの流れを示したタイムライン

図の左端にある手元資金4,800万円で、今月末の経費と翌月末の仕入代金を支払います。

逆に言えば、あらかじめ4,800万円を手元に置いてあれば、何事もなく払えて、翌々月末に5,000万円が入ってくる。この「あらかじめ置いてある」状態を作る仕事が、資金繰りです。

入金と出金のタイミングを見て、必要な現金を切らさないようにやり繰りする。それ以上でも以下でもありません。儲け方の話ではなく、タイミングの話です。

なお、この例では「売上は翌々月末に入金」「仕入は翌月末に支払」としましたが、取引してから入金・支払までの待ち時間を「掛け」と呼びます(→「掛け」とは何か)。また、利益が出ているのに現金が足りないという状態は、例外ではなく普通に起きます。この点は稿を改めて扱います(→黒字倒産はなぜ起きるか)。

現金はガソリン——ただし、給油には1か月かかる

現金は車のガソリンに似ています。

ガソリン 現金
なくなったら 車が止まる 事業が止まる
減る場面 車が走る 支払いに使う
増える場面 給油する 売上が入金される

ガソリンが空なら、どれだけ性能の良い車でも走りません。現金も同じで、どれだけ良い商品を持っていても、どれだけ利益が出ていても、支払いに充てる現金がなければ事業は止まる。この一点において、現金は他のどの経営資源とも性質が違います。

ただし、この比喩には注意すべき続きが二つあります。

一つは、会社は速く走るほど燃料が減る場面があるということです。売上が伸びると仕入も先行して増え、入金を待つ金額も膨らむ。業績が良いときにこそ現金が細るという構造が存在します(→売上が伸びると資金繰りが苦しくなる理由)。

もう一つは、給油にかかる時間です。 ガソリンスタンドなら5分ですが、金融機関からの調達には準備と手続きの時間がかかります。決算書試算表を揃え、担当者が稟議書を書き、支店で、場合によっては本部で決裁を取る。信用保証協会が絡めばその審査も入ります。金額や内容にもよりますが、相談から実行まで1か月程度は見ておいたほうがいい。設備資金や金額の大きい案件では、それ以上かかることもあります。

近年はメガバンクを中心に、口座の入出金データをAIが審査してオンラインで完結する融資サービスも増えました。決算書の提出が不要で、数営業日で実行できる経路もあります。ただし、対象となる会社の条件、資金の使途、金額、期間は、サービスごとに限定されています。自社が使える経路がどれで、そこにどれだけの時間がかかるのか。それは、必要になる前に確かめておくことです。

いずれにせよ、金額が大きくなるほど、また設備投資のように資金の使途が長期にわたるほど、従来どおりの手続きと時間がかかると考えておいたほうが安全です。

つまり、ガソリンメーターの針がゼロに近づいてから動き始めても、間に合わないリスクがある。資金が足りなくなる月に入ってから、相談に駆け込んで来られるケースが実際にあります。このとき担当者が最初に考えるのは「貸せるかどうか」ではなく「なぜこのタイミングまで分からなかったのか」です。もちろん入金の遅れなど事情もあるとは思いますが、融資の可否以前に、経営管理への疑問が先に立ってしまう。

だから必要なのは、ガソリンメーターではなく到達予測です。今、何リットル残っているかではなく、このペースであと何か月走れるのか。 資金繰りを見通すというのは、この問いに数字で答えられる状態を作ることを指します。

タンクにどれだけ入れておくか

では、手元にどれだけ現金を置いておくべきか。

一般的な目安は、最低でも月商の1か月分、余裕を持つなら2〜3か月分は欲しいです。先ほどの月商5,000万円の会社なら、最低ラインが5,000万円ということになります。多いと感じるでしょうか。これには根拠があります。

月商1か月分を切ると、大口取引先の入金が1件遅れただけで支払いが回らなくなるからです。この水準の会社は、入金遅延や想定外の出費のたびに短期の借入を申し込むことになる。しかもそれが、資金が必要になる直前の申込みになります。

貸す側は、この状態を決算書からすぐ読み取ります。現預金残高を月商で割るという作業は、審査の初期にやります。月商1か月分を割っている会社を見たとき、担当者の頭に浮かぶのは「何かあったときに持たない会社」という評価です。それ自体が融資を否決する理由になるわけではありませんが、貸出条件や、次に相談が来たときの初速に影響します。

もう一つ、忘れがちな点があります。タンクの容量には、預金だけでなく「借りられる余力」も含まれるということです。当座貸越枠、既存借入の折り返しに応じてもらえる余地、信用保証協会の保証枠の残り。これらは即座に現金化できるわけではありません。当座貸越枠は実質的に手元流動性の一部として機能しますし、折り返しや保証枠の残りは、通常より早く資金を手にする拠り所になります。

ここで、取引金融機関が1行だけという会社はリスクを取っていることになります。その1行が慎重な姿勢に転じたとき、代わりに動いてくれる先がない。預金残高が同じでも、使えるタンクの数が違うのです。

現預金を厚く持つことは、社長から見れば「遊んでいるお金」に見え、それだったら借金を減らしたいと思われるかもしれません。しかし貸す側から見ると、それは支払能力の余裕であり、経営判断の余裕でもある。評価の方向が逆であることは、知っておいて損はないと思います。

残高を見る経営から、見通す経営へ

資金繰りを管理していない会社の社長は、同じ行動を取りがちです。ネットバンキングで口座残高を見て、感覚で判断する。月末が近づくと落ち着かなくなる。支払いが済んで残高を確認して、ひとまず安心する。そしてまた翌月、同じことを繰り返してしまう。

これを、半年先の残高が数字で見えている状態に変える。それだけで経営は変わります。月末の残高に気を取られずに本業に集中できる。資金が足りなくなる月が事前に分かるので、審査に必要な期間を織り込んで、余裕を持って金融機関に相談できる。投資の判断も、勘ではなく資金の裏づけを持って下せる。

そして、金融機関との関係も変わります。冒頭で、見通せている会社は金融機関の中での扱いが違うと書きました。理由はこうです。担当者は、稟議書を書く立場にいます。 稟議書には、なぜこの資金が必要で、どう返済されるのかを書かなければならない。「資金繰りが苦しいので」とだけ言われても、書けない、説明できない。逆に、資金繰りの見通しを持って「この時期にこの資金が必要になる」と説明してくれる会社は、担当者にとって書ける会社です。書ける会社の案件は前に進みます。

具体的にどう見通しを立てるのか——通帳の動きをどう分解し、どうやって半年先の残高を計算するのか。手順は資金繰り表の作り方の記事にまとめる予定です。


資金繰りの基礎


資金繰りの考え方を、いくつかの記事に分けて掲載しています。理解していただきたいことは、そこまで多くありません。難しいのはその先、貴社の実際の数字に当てはめたときに何が見えるか、そして金融機関の目にどう映るかです。

決算書をご用意いただく必要はありません。現状を伺って、今の資金繰り金融機関から見た貴社の姿を一緒に整理する時間として、初回相談をお受けしています。