金融機関との付き合い方とは、経営者を知ってもらい、貴社に対する金融機関の取引方針を、平時のうちに前向きにしておくことです。
業績や財務は当然重要ですが、融資の可否は、金融機関と貴社の間の日頃の関係の延長線上で判断されます。仮に同じ内容の案件であったとしても、担当者やその上司、支店長が前向きかどうかで、進み方はまったく違ってきます。
この記事では、金融機関が経営者の何を見ているのか、そして前向きな関係をつくるために、どんな接点をどう設ければいいのかを説明します。
融資は、関係の上に乗っている
金融機関は、取引先ごとに取引方針を持っています。積極的に取引を広げるのか、今の取引を維持するのか。この方針は格付や債務者区分だけで決まるものではなく、これまでの経緯や経営者との関係でも変わります(→格付と債務者区分)。
中小企業の場合、会社を知ってもらうことは、経営者を知ってもらうこととほとんど同じです。現場で事業を動かしているのも、判断を下すのも社長だからです。社長がどんな人で、事業をどう見ていて、何をしようとしているのか。それが伝わっていることが、取引方針を前向きにする土台になります。言い換えれば、信頼関係です。融資の相談も、その延長線上にあります。
融資実行までのスピードを気にする社長は多いと思います。スピードも大事ではありますが、担当者や上司、支店長が案件に前向きに取り組んでくれるかどうかが、それ以上に大事です。
金融機関の側から見ると、この違いは案件の進み方に表れます。稟議書は、支店の中でも本部との間でも、やり取りを重ねながら決裁に向かいます(→融資審査の仕組み)。途中で疑問が出たとき、議論になったとき、支店が貴社の側に立って説明を尽くすのか、疑問をそのまま受け止めて条件を絞る方向に動くのか。前向きな担当者や支店長は前者に動きます。社長の目には見えない場所で、です。
目指したいのは、金融機関が「貸せる」と判断する会社ではなく、「貸したい」と思う会社です。「貸せる」は、業績や財務を土台にした判断の結果です。「貸したい」は、その判断に向かう金融機関の姿勢です。業績や財務はすぐには変えられませんが、姿勢は日頃の関係で変わります。そしてその関係は、案件が持ち込まれる前の平時につくっておくものです。
「人を見て貸す」の中身——社長が数字を押さえているか
金融機関は人を見て貸すと言われます。見られているのは、社長の人柄や熱意だけではありません。これまでの事業の経験や、その中で培った強み——何をしてきて、なぜ今の事業で稼げているのか——も、大事な判断材料です。
その上で、もう一つ見られていることがあります。しっかり経営ができているかどうかです。中でも金融機関がよく見ているのは、社長が自社の数字を押さえているかどうかです。
例えば、担当者が今期の見通しを尋ねたとします。足許までの売上や利益の状況を踏まえて、なぜそうなっているのか、この先どう見ているのかを即答できる社長。これは金融機関にとって大きな安心感になります。数字が頭に入っていて、事業の動きと結びつけて話せるということは、会社の状態を自分でつかんでいて、何かあれば早く気づけるということだからです。
逆に、「税理士に聞かないと分からない」「決算が締まってみないと何とも」という答えが続くと、事業の経験や熱意がいくらあっても、安心して見ていることはできません。
ここでいう数字は、財務の専門知識の話ではありません。売上、利益、手元の資金、借入の状況が今どうなっていて、なぜそうなるのか。日々押さえていないと出てこない理解ですが、求められているのはその程度のことです。そして、数字を押さえていることは、それ自体が社長の人となりの一部として伝わります。
接点を仕組みにする
人となりは、一度の面談では伝わりません。決算のときだけ顔を合わせる関係では、年に一度の数字しか伝わらない。だから、定期的に話す機会を仕組みにしておくことが大切です。
組み立ての一例です。
| きっかけ | 頻度 | 主な相手 |
|---|---|---|
| 試算表の提出 | 毎月 | 担当者 |
| 資金繰り表の提出 | 3か月〜半年に1回 | 担当者・上司、できれば支店の審査担当 |
| 決算報告 | 年1回 | 担当者・上司・支店長 |
| 今期の計画と資金需要の相談 | 期初 | 担当者・上司・支店長 |
試算表は、毎月出すのがいいと思います。数字を渡すことだけでなく、毎月話す口実ができることにも意味があります。届けたついでに、あるいは取りに来てもらったついでに話す。これを続けていると、前の節で書いた「数字を押さえている社長」の姿が、自然と担当者に伝わっていきます。
資金繰り表は、3か月から半年に1回くらいのイメージです。これは、支店の審査担当と話す機会をつくるきっかけにもなります。審査担当は普段のやり取りには出てきませんが、稟議書を読んで判断する側にいます。資金繰り表の説明を口実に、たまに直接話す機会を持てると理想的です。資金繰り表そのものの作り方は、別の記事で扱う予定です。
決算報告と期初の相談は、上司や支店長にも同席してもらう節目です。先が見えている経営者は、前年度の決算を報告する場で、今年度の資金調達の予定まで話します。一年先までの資金の動きをつかんでいるからこそできることです。
なお、取引している金融機関が複数ある場合、それぞれの金融機関は他の金融機関の動向をよく見ています。扱いが公平か、出遅れていないか、逆に突出しすぎていないか。大事にしたい先には、取引条件の面でも一定の配慮が要ります。
自分から定期的に状況を報告してくる経営者は、多くありません。金融機関の側には、聞きたくても遠慮しているところがあります。だから、自分から話してくれる社長は、何かあっても隠さずに相談してくれるだろうと受け止められます。
その「何かあったとき」こそ、早めに伝えることです。計画と実績にズレが出るのは当たり前で、問題はズレそのものより、伝わるのが遅れることです。伝えるときは、ズレの大きさ、その理由(一時的なものか、構造的なものか)、打ち手、見通しの修正をセットにします。
金融機関の側から見ると、業績が悪化したとき、担当者は貴社への評価を維持できる理由を、内部で説明しなければなりません(→格付と債務者区分)。決算書が届いた日に初めて赤字を知るのと、数か月前から理由と打ち手を聞いているのとでは、担当者の手元にある材料がまったく違います。
担当者や支店長が替わったとき
担当者や支店長が替わると、貴社への見方が変わることがあります(→融資審査の仕組み)。前任とどれだけ良い関係を築いていても、それがそのまま後任に引き継がれるとは限りません。その関係は、文章としては引き継がれるでしょうが、社長がどんな人なのかという生身の手応えまでは、十分には伝わりません。
だから、交代は関係をつくり直す機会だと考えます。後任の担当者とは早めに時間を取り、事業の中身と今期の計画を、自分の口から話し直す。前任と話が進んでいたことがあれば、その位置づけを確認しておく。支店長が替わったときも同じで、着任後の早い時期に、会社の方針と今期の見通しを直接伝える場を持てるといいと思います。
新しい担当者や支店長が最初に受ける印象は、その後の見方の起点になります。そこで伝わってほしいのも、事業を語れて、数字を押さえている社長の姿です。
仕組みを理解したとしても、その中で自社がどう見えているかは別の話です。そこは一緒に見たほうが早いし、正確です。
決算書をご用意いただく必要はありません。現状を伺って、今の資金繰りや金融機関から見た貴社の姿を一緒に整理する時間として、初回相談をお受けしています。